果実害虫ミバエ類の誘引物質 Attractants for the pest fruit flies


  Bactrocera 属ミバエは重要害虫を多く含んでいます。ミバエは果実に産卵し、孵化幼虫が果実に侵入・食害することで果実を腐敗させてしまいます。果実内の幼虫を殺虫剤で防除することは困難であり、発生地域からは野菜・果実の移動が厳しく制限されてしまうケースも少なくありません。かつて日本でもウリミバエ B. cucurbitae やミカンコミバエ B. dorsalis が南西諸島における野菜果樹栽培に多大な被害をもたらしていました。しかし現在 2 種のミバエは多くの人々の努力の結果、南西諸島では根絶されています。
 2 種のミバエ根絶の鍵となったものの一つに、誘引剤を利用した雄成虫の殺虫があります。ミバエの雄成虫は特定の植物由来の化合物に強く誘引され、これを盛んに摂食します。具体的にはミカンコミバエは methyl eugenol に、ウリミバエは cue-lure に誘引されます。雄は直腸にあるフェロモン腺にこれらの物質を貯蔵し、雌への求愛時に性フェロモンとして利用するのです(※1,2)。誘引剤と殺虫剤を塗りこんだ板を発生地に設置すると、誘引された雄成虫は誘引剤と殺虫剤のしみ込んだ板を盛んになめる行動をとるため殺虫できます。この防除法は、通常の殺虫剤散布では効果が薄いミバエの撲滅に大きく貢献しました。


 現在日本で問題になっているミバエは中国・四国地方以西に分布し柑橘を加害するミカンバエ B. tsuneonis と沖縄以西に分布しナス科野菜を加害するナスミバエ B. latifrons の 2 種です。ミカンバエは誘引物質が不明ですが、揮発物質に対する電位応答を測定できる GC-EAD を用いたアプローチによって柑橘類の揮発物やフェロモン腺中に誘引活性物質がないか探索しています。一方ナスミバエではイオノン類化合物に強い誘引・摂食活性があることを明らかにしてきましたが(※ 3)、どのような受容機構が働いているかは未だ不明です。そこで次世代シーケンサーによって、触角などの受容器官における発現遺伝子を網羅的に取得することで誘引物質受容体の特定を目指しています。受容体が特定できれば、リガンド結合部位の3次構造からさらに強力な誘引物質を推定することが可能になるかもしれません。



【参考文献】
1.Nishida et al., Accumulation of phenylpropanoids in the rectal glands of males of the Oriental fruit fly, Dacus dorsalis. Experientia 44, 534-536 (1988).

2.Tan et al., Comparison of phenylpropanoid volatiles in male rectal pheromone gland after methyl eugenol consumption, and molecular phylogenetic relationship of four global pest fruit fly species: Bactrocera invadens, B. dorsalis, B. correcta and B. sonata. Chemoecology 21, 25-33 (2011).

3.Enomoto et al., 3-Oxygenated α-ionone derivatives as potent male attractants for the solanaceous fruit fly, Bactrocera latifrons (Diptera: Tephritidae), and sequestered metabolites in the rectal gland, Appl. Entomol. Zool. 45, 551-556 (2010).