リンゴの防御物質 Apple defense substances


 葉や実を食べる芋虫や木部を齧るカミキリムシ、果肉を吸汁するカメムシなど様々な害虫から攻撃され、農薬を使わないと栽培が難しいリンゴ。中でも、モモシンクイガ Carposina sasakii Matsumura は、卵から孵るとすぐ果実内部に潜り込むため、殺虫剤による防除も困難です。しかも、生まれたての幼虫が果実に入り込んだ痕は 1 mm 以下と小さく、被害果かどうかが見た目で判別できないことから、出荷果実に紛れ込んで検疫で問題になるなど、近年特に注目される重要害虫となっています。
 実は、ただ食べられるだけと思われていたリンゴ果実が、モモシンクイガ幼虫に対して積極的に有毒物質を産生して抵抗していることがわかってきました。 青森県産業技術センターりんご研究所の石栗陽一博士との共同研究で、モモシンクイガ幼虫の食入によって誘導される化学物質を調べ、リンゴ果実の防御応答メカニズムの解明を目指しています。

 モモシンクイガの卵は果実の表面に産み付けられ、内部に食入した幼虫は果肉を食い進んで成長した後、終齢幼虫となって実から脱出します。摘果した果実では幼虫の生存率が70−85%程度と高いのに対し、木に生っている果実(着果)ではわずか6%にまで下がることがわかっています(※1)。現在、着果に特異的な誘導代謝物を化学分析により探索しています。
 また、幼虫の食入痕の周辺では複数の化合物がピンポイントで誘導されていることがわかってきました。この化合物の中には、様々な生理活性(※2, 3)で知られるトリテルペンの一種、ウルソール酸 ursolic acid も含まれます。誘導される化合物がモモシンクイガに対してどのような役割を果たすのかわかっていませんが、虫食いリンゴの中で劇的な化合物の変動が刻々と起きていることが示唆されました。

 ウルソール酸はリンゴの果皮に多く含まれることからリンゴは皮ごと食べようという話もある一方、皮にはワックスや防腐剤が....と思う人もいるようです。化学生態学研では、りんご研究所から送って頂く完熟の“健全果サンプル”が研究のモチベーションアップと健康維持に役立っています。


【参考文献】
1.Ishiguri and Toyoshima, Larval survival and development of the peach fruit moth, Carposina sasakii (Lepidoptera: Carposinidae), in picked and unpicked apple fruits, Applied Entomology and Zoology 41(4) 685-690 (2006).

2.Ohigashi et al., Search for possible antitumor promoters by inhibition of 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate-induced Epstein-Barr virus activation; ursolic acid and oleanolic acid from an anti-inflammatory Chinese medicinal plant, Glechoma hederaceae L. Cancer Lett 30, 143-51 (1986).

3.Evert et al., Identification and Small Molecule Inhibition of an Activating Transcription Factor 4 (ATF4)-dependent Pathway to Age-related Skeletal Muscle Weakness and Atrophy. J Biol Chem. 290(42):25497-511 (2015).