三者間相互作用とFACs Tritrophic interaction and FACs
害虫に食害された植物は様々な方法で身を守っています。虫にとって有毒な、あるいは消化しにくい防御物質で対抗する直接防御、それら防御物質を予め蓄えておく恒常的防御、食害された時に最適な防御物質を新たに生合成する誘導性防御があります。さらに複雑高度な防御機構として、害虫には直接影響ないものの、害虫の天敵である寄生蜂に目印となる揮発成分を放出する間接防御もあります。この揮発成分は、広い圃場で寄主となるイモムシを探す寄生蜂にとって重要で、一般に屋外から採集した幼虫の寄生率は高いことからも、この防御機構は効果的であると言えます。寄生蜂の中には特定のイモムシにしか卵を産まないスペシャリストもいて、植物は害虫の種類によって匂いを少しずつ変え、その違いを寄生蜂側も識別していると言われています(※1)。
何故植物は、このように害虫の種類を識別することが可能なのでしょうか?これには、イモムシの唾液に含まれる化合物が関わっています(※2)。脂肪酸とアミノ酸の縮合物、Fatty acid-Amino acid Conjugates 略してFACsと呼ばれ、様々なイモムシがこの化合物とその類縁体を持っています(※3)。唾液の中のFACsの組成の違いは種によって様々で、この微妙な違いが高度な植物-害虫-天敵の三者間相互作用に関わっています。
しかし何故イモムシは、わざわざこんな化合物を作るのでしょうか?我々の研究で、FACsが幼虫の窒素代謝効率化に関わっていることが示唆されました(※4、5)。つまり、天敵を呼ばれるリスクを負ってでもFACsを作り、窒素代謝を効率化させて一日も早く成長することで、逃げ切る戦略をとっていると考えられます。
【参考文献】
1.De Moraes et al., Herbivore-infested plants selectively attract parasitoids., Nature 393, p570–573 (1998).
2.Alborn et al., An Elicitor of Plant Volatiles from Beet Armyworm Oral Secretion. Science 276, p945-949 (1997).
3.Yoshinaga et al., Fatty Acid-amino Acid Conjugates Diversification in Lepidopteran Caterpillars. J Chem Ecol 36, p319–325 (2010).
4.Yoshinaga et al., Active role of fatty acid amino acid conjugates in nitrogen metabolism in Spodoptera litura larvae. PNAS 105, p18058-18063 (2008).
5.Maruoka et al., Knock-Out of ACY-1 Like Gene in Spodoptera litura Supports the Notion that FACs Improve Nitrogen Metabolism. J. Chem. Ecol 50, p573-580 (2024).